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2006.07.20 (木)

「 北朝鮮制裁は中国を念頭に置け 」

『週刊新潮』 '06年7月20日号
日本ルネッサンス 第223回

米国の独立記念日に合わせて北朝鮮がミサイル7発を発射したことで、国連安全保障理事会を舞台にした攻防が展開中だ。本稿が出る頃には、日本提案の制裁決議案に中国がどう対応したのかが明らかになっているはずだ。

ミサイル発射後の内外の論調は、中韓両国など一部を除いて、北朝鮮に対して非常に厳しい内容だ。日本にとっては、直接的かつ現実的危機であり、他のどの国よりも北朝鮮への批判や非難が強くても当然である。いつもは北朝鮮の立場を擁護しがちな『朝日新聞』でさえ、今回は「恫喝外交だ」と言い切っている。

しかし、こうした論で決定的に欠けているのが、北朝鮮の背後に控える中国への言及だ。今回の危機の発生に中国が事実上どれほど加担してきたか、北朝鮮の現状維持で中国がどれほどの権益を得ているかは殆ど指摘されず、むしろ中国への同情論が展開されている。

たとえば、『朝日』は7月9日の「説得?心中? 中国窮地」という見出しの記事で、「北朝鮮は難しい」という「中国の高官」の言葉を引用しながら、中国が北朝鮮への制裁決議に慎重な理由を中国の視点に立って解説している。つまり、中国は、強硬策をとった場合の北朝鮮の暴発を懸念するとともに、最終的に国際社会の動きに同調するにしても、その前に米国からの協力を出来るだけとりつけておきたいために渋っているというものだ。

『朝日』は中国も困惑し窮地に陥っているという同情論を報じているわけだ。だが、中国が窮地に陥っているのは、北朝鮮の暴挙を含めて、現在の金正日体制を、中国の国益のために温存しようとする姿勢が、衆人環視の国際社会で明らかにされようとしているからではないか。中国の価値観の歪みが広く周知されかねない局面に立たされたから窮地に陥っているのだ。中国が北朝鮮のミサイル発射を歓迎しているとまでは、言わない。しかし、中国は北朝鮮にミサイル発射を思い止まらせるための努力を本気でしたのかどうか、難しい国としての北朝鮮の存在は、むしろ、中国の歓迎するところではないのかという点を吟味すべきだ。

いま、北朝鮮の生殺与奪を握っているのは中国である。だからこそ中国が本気で金総書記にミサイル発射を思い止まらせようと考えるなら、それは可能だと思わざるを得ない。にもかかわらず、そうしないのは何故か。少なくともそのことを厳しく分析しなければ、国連安保理を舞台にした国際政治の駆け引きの本質は見えてはこない。

国土を“切り売り”の意味

いま金総書記は事実上、北朝鮮の国土を中国に切り売りしているのである。東北アジア資料センター代表の花房征夫氏の研究報告によれば、金正日政権は05年9月には朝鮮半島最北端の不凍港、羅津港の50年間の租借権を中国に渡した。この港は1932年に日本が満州国と日本本土を結ぶ最短交易港として開港したもので、戦略的に非常に重要な意味を持つ。65年には旧ソ連が同港を租借してベトナム戦争の軍事物資の輸送拠点とした。その戦略的拠点の使用権を中国は50年間の長期にわたって確保したのだ。しかも使用の形態は、中国が北朝鮮の国土を借り上げ、そこで中国が行政権を執行するというもので、まさに租借である。現代の植民地なのである。

中国は中国国内から羅津港に通ずる幹線道路の拡幅工事を行う約束でその道路の使用権も得た。周辺一帯の開発も広く行われ、中国資本と中国企業の進出が相ついで予定されている。羅津港の租借により、中国はこれまで手にしたことのない日本海への出口を、はじめて得たことになる。これで日本は、日本海への中国の本格的進出と戦略的活用という厄介な問題に直面するだろう。中国は必ず、日本海を中国の物流、貿易のために利用するであろうし、それは日本海が中国の内海になっていくことを意味する。さらに、これまでの中国の日本に対する振る舞いをみれば、東シナ海も日本海も、本来は中国の海だという主張につながっていくことを私たちは覚悟し、その危機に備えなければならない。

北朝鮮が中国に渡しているものは他にも数多くある。北朝鮮最大の鉄鉱山、茂山鉱山の採掘権も中国が手に入れた。中朝国境周辺地域には、北朝鮮の未開発の地下資源が眠る鉱山が散在する。北東アジア最大の銅山である恵山青年銅鉱山にも、満浦亜鉛鉱や、会寧の金鉱にも中国の資本が投入された。

花房論文によると、これらの地下資源鉱山は、中朝国境近くにあるため、中国が自力で電力を持ち込むことも可能であり、物流も容易だという。

中国同情論の誤り

これらは全て北朝鮮国民の貴重な資源だ。それを、金総書記は自身の生き残りのために切り売りしているのだ。中国にとっては、これ以上望むことはないであろう。自分の生き残りにかまけ、国家の未来など全く考慮することのない、指導者としての正常な判断能力を喪失した人物を相手に、中国は北朝鮮を21世紀の植民地としつつある。北朝鮮の国民の苦しみも、ミサイル発射による国際社会への脅威も、中国の国益の前では忘れ去られ、逆に金正日体制の温存が優先される。

北朝鮮の中国への経済的依存度の深まりも、中国の戦略である。00年5月及び01年1月の金総書記訪中、01年9月の江沢民訪朝などを通して、中朝貿易は急増し、05年には北朝鮮の全貿易量の40%を超えた。表に出されている中朝貿易は金額で15・8億ドルで、2位の韓国の6・9億ドルを大きく引き離している。表に出てくる取引き量は実際の量の半分程といわれており、実際の中朝貿易はこの数字よりはるかに大きいはずだ。

いま北朝鮮で流通しているあらゆる分野の物資の8割が中国製だともいわれている。ついでにいえば、通貨も中国の人民元が事実上の基軸通貨の機能を果たしているに等しい。

このように、中国が本気で金総書記を思い止まらせようとすれば出来ないはずはないのだ。

北朝鮮問題があればこそ、中国は6か国協議で責任ある国家の役割を演ずるチャンスもある。事実、米国は中国に期待し、中国に対する米国の相対的評価も高まった。北朝鮮の行動から中国が得てきたのは、内政、外交双方の利益のみである。

そのような中国の立場を見誤って“中国も困っているのだ”などと同情するのは間違いだ。米国は04年の北朝鮮人権法でその半分を中国批判に費やした。北朝鮮と中国の関係の本質をきちんと見ているのである。北朝鮮だけを見ていては事の本質は見えない。日本外交もまた、北朝鮮の背後にある中国とその政策を厳しく分析し、対中反撃を開始しなければならない。

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